Webサイトの話が、採用ブランディングになった日
独立してはじめて「余白」と出会った話
2023年に技術コンサルタントとして独立した私(武田邦敬)が、はじめて「余白」という言葉を意識した案件の話をしたいと思います。
独立を宣言して半年後のことでした。古巣でお世話になった方から久々に連絡が来たのです。一緒に仕事しない?と。
当時、独立のきっかけとなったAI活用支援コンサルの仕事が早々に終息してしまい、長い長い夏休みを過ごしていたところだったので、本当にありがたい話でした。
先方はSE時代に現場で一緒に戦った同志であり、SEからデータサイエンティストに転じた後もたまに連絡を取り合っていました。今は独立IT系開発会社の役員をされているとのことでした。
早速お話を伺ってみると、自社コーポレートサイトをリニューアルしたいという話でした。自社サイトは2000年ごろに構築してからほとんど変えておらず、デザインが古くて何とかしたいと。
実際にWebサイトを見てみると、非常に懐かしい雰囲気のサイトデザイン。古き良きインターネットの香りがあり、これはこれで味があると思ったものの、新着情報が十数年近く更新していないこともあって、稼働している会社かどうかわからないという問題がありました。
先方のご依頼は、エンジニアとしてWebサイトをリニューアルしてほしいという話でしたが、残念ながら私はそれを専業にしていません。そこで、ITコーディネータの知見を活かしてアドバイスをさせてほしいという話をしました。
ご希望と異なる提案だったので無償で動きはじめたのですが、先方よりきちんと対価を払うから一緒に完遂してほしいというお話をいただきました。
本来はこちらから有償コンサルの提案をすべきだったところ、クライアントから逆提案をされるという事態に。本当にありがたい話で、胸が熱くなりました。
本格的にコンサルを開始し、要件定義を行っていきました。しかし、いきなり要件定義書を作ることは避け、対話中心のアプローチをとることにしました。
というのも、サイトデザインやコンセプトに関する具体的な要望が見えてこないという状況だったのです。
もちろん、この段階でも、「要件定義書」や「RFP(提案依頼書)」のひな型を作ってガリガリ具体化していくことはできたでしょう。しかし、この状態で理詰めで具体化しても、何かよくないんじゃないかと直観的に思っていました。
そこで、要件に関する話はミーティングの3割程度に留め、残りの時間をゆっくり使って事業の課題を探ることに。
とはいえ、Webサイトの要件の話をしているときに「事業の課題は何ですか」と尋ねてもまずうまくいきません。そのため、まずは次の問いからはじめていきました。
サイトリニューアルを思いついたきっかけは何でしたか?
そうすると、「新しい人を採用できたんだけど、うちのWebページをみて入社を躊躇したって言ってたんだよね。入ってくれたからよかったけど」というエピソードを語ってくれました。
これまでもサイトデザインの問題は見えていたものの、優先順位は低いままだった。しかし、人を増やしていく中で、問題が顕在化しつつあったということでした。つまり、採用戦略上の問題があり、そのことがこの会社にとって重要な課題だったのです。
このようにして、コストをかけてWebサイトをリニューアルするという話に経営がGOをした背景が、少しずつ見てきました。つまり、解くべき課題の正体がはじめてわかったのです。
一方、一度のミーティングで課題が言語化されたわけでは決してありません。先ほどの問いを入口として、少しずつその輪郭が見えてきたというのが実際のところです。
Webサイトリニューアルの要件定義書を作るという目的を念頭に置きつつも、性急に結論を急がず言葉を重ねていったことが、このプロジェクトの成功要因となりました。
私は、こうした対話の時間を「余白」と呼んでいます。
余白とは、単なる空白ではなく、対話の中で意図的に作られた空間です。
それにより、アドバイザーはクライアントに起きていることを注意深く観察する。一方、クライアントは、自身が直面している課題の根本や本音を自然と体現する機会を得るわけです。
こうした相互作用により、テーブルに並べられた問題を超えた真の課題を発見したり、新たな解決策を見出したりすることができます。まさに、対話が創造性を生み出す瞬間です。
私は、技術系リーダーとの1on1や、ピープルアナリティクスの伴走支援をする中で、無意識に余白を活用していることに気づきました。
あなたの周りに、余白を必要としているリーダーを見かけたことはないでしょうか。あるいは、あなた自身、日々課題解決に追われているのに、達成感が得られないと感じることはないでしょうか。
そんな時は、いったん手足を止めて余白に入ることで、全く違う風景が見えてくるかもしれません。



